沖田瑞穂の神話雑記

アクセスカウンタ

zoom RSS 猿神ハヌーマット、サルタヒコ、孫悟空

<<   作成日時 : 2017/09/12 14:59   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

先日行われた比較神話研究会で発表しました。
レジュメを公開いたしますので、ご意見などよろしくお願いいたします。


筑波大学比較宗教学研究会(比較神話学研究組織)
文化英雄その他

猿神ハヌーマット、サルタヒコ、孫悟空
沖田瑞穂

序 サルタヒコと世界の神話の先行研究 吉田敦彦による
「世界の神話とサルタヒコ」『隠された神サルタヒコ』
鎌田東二編著、大和書房、1999年、31-49頁。
・サルタヒコの二面性
 恐ろしい姿で境の辻に立ちふさがる
 天孫の道案内をして別世界に導く
・双面神ヤヌスとの比較
 門の神、入口の神→性行為、出産の神
 神々の先頭に立つ神
・インドの風神ヴァーユ
 祭式において先頭に立って降りてくる
 イランにおける対応神ヴァユの二面性
 ゾロアスター教におけるヴァユは「善きヴァーイ」と「悪しきヴァーイ」という
二面性をもち、死者の魂を導く役割を果たす
・ヴァーユの息子ビーマ
 「先導者」
 羅刹女ヒディンバーとの関係など、善悪両方の側面を持つ
・杖の神=陽根神としてのサルタヒコと、ヘルメス像
・サルタヒコの最も肝心な働き:「閉じている扉を開いて、
新しい世界に導入するというか、そこに導く役をする」(48頁)

 これらの先行研究を踏まえ、ここではヴァーユの
もう一人の息子である猿神ハヌーマットとサルタヒコ、
そして孫悟空との比較を行っていきたい。

1 ビーマのイニシエーションと兄神ハヌーマットの顕現
(『マハーバーラタ』)
二度目の放浪の旅の途中、アルジュナがインドラ神のもとで
修業をしている間、残りの四人のパーンダヴァ兄弟と共通の妻
ドラウパディーは、聖仙ナラとナーラーヤナの
隠棲所の近くにやって来た。
その美しい森で快適に過ごしていた時、ドラウパディーは
東北の風が運んできた神聖な蓮花サウガンディカを見つけた。
彼女はその花をもっと欲しいと望んで、取って来るように
ビーマに頼んだ。ビーマは愛しい妻の望みを叶えてやろうと、
その花を取りに、花を運んできた風の方向に向かって行った。
彼は道中でバナナの林を見つけ、腕力に任せてその木々を
倒して放り投げた。象や獅子などの様々な動物が
彼に襲いかかったが、彼は素手でそれらの獣を殺戮した。
山の中に湖を見つけると、気の済むまで沐浴してから岸に上がり、
再び森に入った。そしてビーマは山に大音響を生じさせた。
その様子は、次のように記されている。

それからビーマは、多くの木を抱えるその森にすばやく入って行き、
全ての息を使って法螺貝を高らかに吹いた。
その法螺貝の音と、ビーマセーナの叫び声、
彼の恐ろしい腕の音によって、山の洞窟は鳴り響いた。
金剛杵(ヴァジュラ)の打撃にも似た、腕を打つ大音響を聞いて、
山の洞窟で眠っていた獅子たちは大きな吠え声を発した。
獅子の吠え声に怯えた象たちも、大きな叫び声を発した。
その音は山々に溢れかえった。
 一方、ハヌーマットという名の巨大な優れた猿は、
眠っていたが、その音を聞いてあくびをした。
その時彼はバナナの林の中で眠っていたが、あくびをして、
掲げられたインドラの旗のように長い尾を打ち振って、
インドラの雷電のような音を立てた。彼の尾の音に対し、
山は自らの口である洞窟によって、牛の唸り声のように、
至る所で音を発した。彼の尾が立てる音は、
興奮した象の鳴き声に覆いかぶさり、
多彩な山の峰々に響きわたった。
(3, 146, 55-62. 以下、マハーバーラタの訳出部分はプーナ批判版を用いた。
訳に際しては上村勝彦訳『原典訳 マハーバーラタ』を参照した。)

ここでは「音」が何度も強調されているが、これらの音はビーマの
イニシエーションを表すものと考えられる。ビーマは
そのイニシエーションを告げる大音響を生じさせながら森を昇っていく。
そこで彼は、自分と同じく風神ヴァーユを父とする神猿ハヌーマットに出会う。
ビーマは、はじめはその猿が兄のハヌーマットであることが分からず、
高圧的な態度を取って猿に道を譲るように言う。
すると猿は、自分の尾をどけて道を通るように告げる。
ビーマは猿の尾をどかそうとする。その様子は、次のように述べられている。

ビーマは見下して笑いながら、左手で大猿の尾をつかんだが、
動かすことはできなかった。再びビーマはインドラの武器のように
そびえる尾を両腕で持ち上げようとしたが、
大力のビーマの両腕でも持ち上げることはできなかった。
ビーマは眉をつり上げ、目を丸く見開き、眉をひそめて、
体中汗にまみれたが、持ち上げることはできなかった。
栄光あるビーマは努力をしたが、尾を持ち上げることができず、
猿の近くに立って恥じて下を向いていた。(3, 147, 17-20)

このハヌーマットとの出会いが、ビーマの試練となる。
ビーマはその猿が兄であることを知り、「ラーマーヤナ」に
語られているような活躍をした、太古の姿を見せてくれるように懇願する。
ハヌーマットは弟の望みに答えて、神的な姿を顕示する。
その様子は、次のように語られている。

弟を喜ばせようと、彼は非常に大きな身体になった。
彼の身体は、背丈も幅も非常に増大した。
偉大な光輝を有するその猿は、身体をバナナの林に広げ、
山のように増大して立っていた。
その猿は山のような巨大な身体を増大させ、赤い眼をし、鋭い牙を持ち、
目をしかめ、長い尾を波打たせ、あらゆる方向に遍在して立っていた。
兄のその巨大な姿を見て、ビーマは驚き、何度も喜んだ。
その輝きのために太陽に似た、黄金の山のような、
輝く天空のような彼を見て、ビーマは眼を閉じた。(3, 149, 3-7)

自らの姿を現した後、ハヌーマットは巨大な身体を小さくしてビーマを抱きしめ、
森を出て自分の住処に帰るように諭し、ビーマの願いを聞いて叶えてやった。

 このビーマのイニシエーションは、兄神との遭遇と、
彼との対話、そして兄神から願いを叶えてもらうことによって構成されている。

2 ハヌーマットのイニシエーションとサルタヒコの生と死:貝と女神の口
@スラサー女神によるハヌーマットのイニシエーション
ハヌーマットが、ラーマ王子の妃シーターを探すために
勢いよく空中を飛翔していると、彼の武勇を試したいという神々の依頼を受けた
女神スラサーが、醜く恐ろしい羅刹女の姿を取ってハヌーマットをさえぎり、
彼を食べようとした。ハヌーマットが事情を説明し、
シーターとラーマに会ってからあなたの口に入りましょうと言うと、
スラサーは「何者も、私に食べられないで通り過ぎる者はいない。
これは私の特権です」と言い、口を大きく開けた。
ハヌーマットは怒って、「私が入れるよう、口をもっと大きく開け」と言った。
スラサーとハヌーマットは競い合うようにそれぞれ口と体を大きくした。
スラサーが口を百ヨージョナに開けたとき、ハヌーマットは巨大な体を縮めて、
親指ほどの大きさになり、スラサーの口に入り、
そこから飛び出した。女神スラサーは本来の姿に戻り、
ハヌーマットを祝福した。(『ラーマーヤナ』5, 1)
 
女神の口に入り、そこから生きて出てくるということは、
ハヌーマットの死と再生を暗示しており、
ハヌーマットの通過儀礼を表していると見ることができる。



A羅刹女シンヒカーによるハヌーマットのイニシエーション
ハヌーマットがラーマ王子の妃シーターを探して空中を飛翔していると、
彼の影がシンヒカーに捕えられた。足を引っ張られたようになった
ハヌーマットはシンヒカーを見出し、自ら体を巨大に引き延ばした。
シンヒカーも、天地に届くほどに大きく口を開けた。
ハヌーマットは一瞬で体を縮めて彼女の口の中に入り、
鋭い爪で彼女を切り裂いて出てくると、すぐに体をもとに戻した。
シンヒカーは殺されて水中に沈んだ。(『ラーマーヤナ』5, 1)

 ハヌーマットによるシンヒカー殺害の話は、
彼がスラサー女神と出会った直後のこととして語られている。
スラサー女神の場合も羅刹女シンヒカーの場合も、
ハヌーマットはその口の中に入って出てくる。
女神の体に入っていくということは、誕生以前の状態に戻ること、
すなわち死を意味する。この神話はハヌーマットの死と再生の物語であり、
彼の通過儀礼を意味している。
(『世界女神大事典』原書房、「シンヒカー」「スラサー」沖田執筆項目より。)

→サルタヒコ:
 サルタヒコは貝から生まれ、貝に手を挟まれて溺れ死ぬ。

サルタヒコの誕生
『出雲国風土記』「島根郡」
(『出雲国風土記 全訳注』荻原千鶴、講談社学術文庫、1999年、96頁)
加賀の郷。郡家の北西二十四里一百六十歩。
佐太(さだ)の大神(おほかみ)の生(あ)れましし所也(なり)。
御祖(みおや)、神魂命(かむむすひのみこと)の御子(みこ)、
支佐加比売命(きさかひめのみこと)、『闇(くら)き岩屋(いはや)なる哉(かも)』
と詔(の)りたまひて、金弓(かなゆみ)以(も)ちて射給(いたま)ふ時に、
光加加明(かかや)きき。故(かれ)、加加(かか)と云(い)ふ。

サルタヒコの死
かれその猨田毗古の神、阿耶訶(あざか)に坐しし時に、
漁(すなどり)して、比良夫(ひらぶ)貝にその手を咋ひ合はさえて
海塩(うしほ)に沈み溺れたまひき。(『古事記』)

・貝は女性の象徴で、サルタヒコはそこから生まれて、
それに手を挟まれて死ぬ。貝と生死が結びついている。
・ハヌーマットは女神や羅刹女の口に入って出てくる。
女神の口と、ハヌーマットの死と再生が暗示されている。

「貝=女神の口」、「そこに出入りする猿神の生と死」

※孫悟空との比較
1.身体を伸び縮みさせる(ハヌーマットと孫悟空)

2.「閉じ込められて、出てくる」
(中野美代子『『西遊記』XYZ』講談社選書メチエ、2009年、174−179頁。)
・閉じ込められた孫悟空1:第六十五回。
法会の時に二枚を打ち鳴らして音を鳴らす鐃鈸。
その真ん中の凹みの中に閉じ込められた。
悟空が身の丈を大きくすると鐃鈸も大きくなり、
小さくすると鐃鈸も小さくなる。亢金龍の角を鐃鈸の合わせ目に食い込ませて、
そこに穴をあけて、芥子粒ほどに小さくなって脱出

・閉じ込められた孫悟空2:第七回。
釈迦如来の手によって五行山の石の隙間に閉じ込められた。
そもそも悟空は石卵から産まれているので、母胎回帰ということになる。
第十四回、三蔵に頼んでお札をはがしてもらい、自由になった

・閉じ込められた孫悟空3:第三十四回。紅葫蘆(べにひさご)。
逆さまにして相手の名を呼び返事をしたら吸い込まれる。
悟空は名前を逆(者行孫)にして返事したが吸い込まれた。
にこ毛を抜いてわが身の半身をこしらえ、
自分は一匹の小さな羽虫に化けて、ひさごの口にとどまり、
銀角がお札をはがして覗いたとたんに脱出。

・閉じ込められた孫悟空4:第七十五回。
魔王の宝瓶の中に吸い込まれて閉じ込められた。
中は涼しかったので涼しいなと言うと瓶の中は炎でいっぱいに。
身体を大きくしたり小さくしたりしても、瓶も伸び縮みする。
観音様からもらったにこ毛を金剛の錐、竹ひご、木綿のひもに変え、
弓と錐で瓶の底に穴をあけて羽虫に化けて脱出。

3.「腹の中などにもぐりこむ」(中野、前掲書、180-183頁。)
・もぐりこむ孫悟空1:第十七回。
仙丹に化けて黒大王の腹に入り、腹の中でもとの姿になって大暴れ、
鼻の孔から外に出る。

・もぐりこむ孫悟空2:第六十六回。
妖怪の黄眉大王と一戦を交えた時、悟空は瓜に化け、
妖怪が瓜にかぶりついた時にその腹の中に入り、
手足をバタバタさせたり、腸をつねったり、腹をひっかいたり、
とんぼ返りをしたり、逆立ちをしたり、好き放題暴れた。

・もぐりこむ孫悟空3:第七十五回。獅駝洞の大魔王の身体のなかに
すすんで飛び込んでいき、内臓を料理して食べてやるぞと威張ったり、
肝臓にぶら下がってぶらんこしたり、逆立ちしたり、とんぼ返りをしたりする。

・もぐりこむ孫悟空4:第五十九回。羅刹女の鉄扇公主が
飲もうとしているお茶の葉に紛れ込んで腹の中に入り、暴れ回り、口からでてきた。

(ハヌーマットと孫悟空が「閉じ込められた空間に入って
出てくることを繰り返す」という点で似ているという比較は、
ツイッターのフォロワーのY氏にご指摘いただいた。記して感謝申し上げる。)

3 ハヌーマットとサルタヒコ――「道に立ちはだかる猿神」
ビーマの前にたちはだかるハヌーマット
・「動かない」ハヌーマット
 ビーマが全力で動かそうとするが動かない

天孫降臨の道にたちはだかるサルタヒコ
・「口を動かして正体を明かそうとしない」サルタヒコ
 天孫の代理としてアメノウズメが口を開かせる

 ここに日子番の邇邇芸の命、
天降(あも)りまさむとする時に、天の八衢(やちまた)に居て、
上は高天の原を光(て)らし下は葦原の中つ国を光(て)らす神ここにあり。
かれここに天照らす大御神高木の神の命もちて、
天の宇受売(うずめ)の神に詔りたまはく、
「汝(いまし)は手弱女人(たわやめ)なれども、
い向(むか)ふ神と面(おも)勝(かつ)つ神なり。
かれもはら汝往きて問はまくは、吾(あ)が御子の天降(あも)りまさむとする道に、
誰そかく居ると問へ」とのりたまひき。
かれ問いたまふ時に、答え白さく、
「僕は国つ神、名は猨田毗(さるたび)古(こ)の神なり。出で居る所以(ゆえ)は、
天つ神の御子天降りますと聞きしかば、
御前(みさき)に仕へまつらむとして、まゐ向い侍(さもら)ふ」とまをしき。

→天孫の代理とビーマの、「動かないものを動かす」というイニシエーション

4 「猿」と「地上の太陽」
サルタヒコ:「上は高天の原を光(て)らし下は葦原の中つ国を光(て)らす神ここにあり」
ハヌーマット:「その輝きのために太陽に似た、黄金の山のような、輝く天空のような」

まとめ
1 類似点のまとめ
ハヌーマットとサルタヒコ
・女神の口(あるいは女神の「下の口」を暗示する貝)に出入りする
 そしてそのことが猿神の生死、死と再生を表す
・立ちはだかる
・地上の太陽

ハヌーマットと孫悟空
・身体を伸び縮みさせる
・閉ざされた空間に入り、出てくることを繰り返す

2 なぜ似ているのか
・ハヌーマットと孫悟空の間には影響関係が想定される。
ハヌーマット→孫悟空
・ハヌーマットとサルタヒコについても、共通点の多さとその特殊性から、
系統的な関連が想定される。伝播経路については今後の課題であるが、
「海の道」も視野に検討を続けたい。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
Sponsored Link
猿神ハヌーマット、サルタヒコ、孫悟空 沖田瑞穂の神話雑記/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる